こんにちは友幸(@humberttomoyuki)です。
今回は最近読んだ小説を紹介するよ。
上田岳弘著「私の恋人」だ。
小説をピンポイントで紹介するのって難しくない?
ネタバレをどれくら入れていくのか采配がよくつかめない。
ハウツー本なら自分が役に立ったところ、読者のためになりそうなことを要約して書くだけだから簡単なんだけど、小説は大衆芸術だ。
前にもいったけど、わたしたちが読んでいる間にしか存在しない芸術なので要約して書いてもあまり意味は無い。
というわけで主観でとりあえず面白かったところを紹介していくよ。
それではいってみよう。
私の恋人とは?
新潮 2015年4月号に掲載され、
の「火花」をおさえて、三島由紀夫賞を受賞した作品。
そのあと「火花」は芥川賞をとってるから、三島由紀夫賞は落ちたんだろうか。
文壇事情はわからないよね。
作者 上田岳弘について
1979年兵庫県生まれ。早稲田大学法学部卒業。2013年、「太陽」で第四十五回新潮新人賞を受賞し、デビュー。2014年、「惑星」が第百五十二回芥川賞候補になる。2015年、『私の恋人』で第二十八回三島由紀夫賞を受賞
上田岳弘さんはデビュー作である「太陽・惑星」を読んですぐに好きになった。
「太陽・惑星」は過去記事でおすすめの小説ベスト100にも選んだよ。
上から目線で誰おまえってかんじだが、わたしがいま最も注目している期待の新人でもある。
私の恋人のあらすじ
時空を超えて転生する「私」の10万年越しの恋。旧石器時代の洞窟で、ナチスの収容所で、東京のアパートで、私は想う。この旅の果てに待つ私の恋人のこと を――。アフリカで誕生した人類はやがて世界を埋め尽くし「偉大なる旅」一周目を終える。大航海時代を経て侵略戦争に明け暮れた二周目の旅。 Windows95の登場とともに始まった三周目の旅の途上で、私は彼女に出会った。
タイトルだけ見ると普通の恋愛小説っぽいが、転生を繰り返して私のファム・ファタール(死語?)、私の恋人を探し当てようとするスケールのでかい話。
SF+純文学というわたしの好きな要素がつめ込まれている作品。
表紙のパウル・クレーの絵もいい。
私の恋人を読んでみて
この小説には3人の私が登場する。
10万年前に人類の祖先であるクロマニョン人だったころの私と、ナチスの収容所で絶命したユダヤ人ハインリヒ・ケプラー、最後が2014年に35歳を迎える日本人井上由祐だ。
面白いのがこの3人の中で一番頭がいいのが、クロマニョン人の私であることだ。
この「最初の私」は頭が良すぎるために他の仲間とは仲良く慣れず、洞窟に引きこもって様々事を想像しながら、壁に自分の思考を書き残している。
その思考は予言ともいえる精度の高いもので、人類の行く末を次々に当ててしまっている。その洞窟は人類にまだ発見されていない。
前作の小説「惑星」に全ての未来が予知できる「最終結論」という日本人がいたが、最初の私はこれに近い存在。
「最初の私」は洞窟の中で、「私の恋人」を想像する。
そして転生して生まれ変わった私は、「最初の私」が思い描いた「私の恋人」を見つけようとする。
そして3人目の私、井上由祐の前に私の恋人といえるエピソードをもった女性があらわれる。
井上はこれが私の恋人に違いないと奮闘する。
もう一人重要な人物で、高橋陽平という人物が登場する。
彼は人類は今は3週目の旅の途中であると語る。
1週目は人類が地球全体に行き渡るまでの旅。
2週目は侵略を繰り返し、日本に原爆を落として終了した旅。
そして1995年以降のITの発達で始まった3週目の旅。
人類はその途上にあるという。
3週目の旅はITの技術によって人工知能が人類を超えた時に終わるという。
特異点(シンギュラリティ)
3週目の旅の終わりは特異点(シンギュラリティ)といわれるもので、2045年問題として扱われている話題を元にしたものだろう。
2045年に人工知能が人間の知能を凌駕する。
人間が自分より優れた存在を作れたということは、1の存在が1.1の存在を作ったってことになる。
一度自分より優れた存在が生まれると、1.1の彼らは当然1.0よりも優れているわけだから、1.2の存在を作り出す。
すると1.2は1.3を作り出す。
こうして特異点を超えると、加速度的に彼らの進化は進んでいき、人類は旧世代のものとして、捨て置かれることになる。
円城塔の「Self-Reference ENGINE 」で巨大知性体が進化しすぎて、人間は彼らがなにをしようとしているのか理解できずに、呆然としている話がある。
正にそんな世界が現実になるわけだ。
ポスト・ヒューマンだよ。
ただ特異点には諸説あって、人工知能はまだまだ人間を超えることはできないって説もある。
どうなるんだろうね。
ITの進化すごいからな。
SFだけでなく恋愛小説でもある
「私の恋人」候補であるキャロライン・ホプキンスは高橋陽平と出会って彼と旅をすることで、彼の意志を引き継ぎ日本を訪れている。
キャロラインの前にはチラホラ高橋陽平の影がみえるのだ。
3人目の私、井上は超絶天才だった「最初の私」は高橋陽平の言ってることなんて10万年前にすでに予言していて、大したことないと口では言うが、キャロラインが高橋陽平の思想に引きつけられているのを感じてもやもやする。
そんな恋愛小説っぽい展開もあるよ。
まとめ
結局あらすじを書いてる自分が嫌になった。
SF小説はあるかもしれない人類の未来を描くという、大きな視点から書かれるものだ。
そこに個人的な視点で書かれる純文学の要素が加わって上手くミックスされている。
淡々とした語り口で、人類の愚かさを嘆きながらも、愛を感じるようなそんな作品。
三島由紀夫賞は結構面白い作品が多いので、おすすめだよ。
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